2025年12月18日、Googleと韓国Pantechの間で係争されていたPixelスマートフォンに関する特許訴訟が、東京地方裁判所において和解により決着しました。これにより、両社の間で続いていたセルラー通信分野に関する全ての訴訟および仮処分事件が解消されることになります。
本件は単なる一企業間の紛争解決にとどまらず、標準必須特許(SEP)を巡るライセンス交渉の難しさや、グローバルなスマートフォン市場における知財戦略の現実を浮き彫りにした事例といえます。
SEP交渉が訴訟に発展する構図
Pantechは2021年、4G/5Gなどのセルラー通信規格に関連するSEPポートフォリオについて、Googleに対してライセンス交渉を打診していました。しかし交渉は円滑に進まず、2022年には特許侵害を理由としてドイツおよび日本で訴訟を提起します。
その後、日本では判断が分かれる結果となりました。2025年6月には、東京地裁が「Pixel 7」に関する訴訟でPantech側の主張を認め、Googleが控訴する事態となりました。一方、7月の大阪地裁では「Pixel 7a」を巡る訴訟でPantechの請求が退けられています。SEPを巡る紛争では、同一技術分野であっても、特許の構成や製品実装の差異によって結論が大きく異なることを改めて示す結果でした。
和解の中身とその意味
今回の和解により、Pantechが全世界で保有するSEPポートフォリオについて、Googleに包括的なライセンスが付与されました。これにより、4G/5G規格に関連する紛争は全て解消され、Pixelシリーズの販売やパートナー企業への供給に影響が及ぶ懸念はなくなりました。
Googleは声明の中で、FRAND条件に基づく公正かつ合理的な交渉姿勢を強調しています。このコメントは、単に自社の正当性を主張するだけでなく、「SEP権者による過度な権利行使」と「実装者によるフリーライド」の中間に位置する難しいバランスを、今後も重視していくというメッセージと受け取れます。
“元メーカー”Pantechの存在感
一方のPantechは、かつては韓国を代表する携帯電話メーカーでしたが、経営破綻後は特許管理企業IdeaHubの完全子会社として再出発しています。現在のPantechは、製品メーカーではなく、特許と商標を軸にグローバルなライセンスビジネスを展開する企業です。
このような企業がSEPを武器に訴訟を提起する構図は、近年ますます一般的になっています。製品を持たない、あるいは製品事業から撤退した企業が、過去の技術資産を活用して収益を確保する戦略は、合理的である一方、実装企業との摩擦を生みやすい側面もあります。
今回の和解が示す業界への示唆
今回の和解は、SEP紛争において最終的には「包括ライセンスによる決着」が現実的な解となりやすいことを示しています。訴訟で一部勝敗が分かれたとしても、グローバルに製品を展開する企業にとっては、長期的な事業安定性を優先する判断が重要になります。
また、SEPを巡る交渉では、法的な強弱だけでなく、交渉姿勢やタイミング、さらには市場への影響をどう評価するかが、結果を大きく左右します。今回の事例は、スマートフォン業界のみならず、IoTや車載通信など、今後さらに拡大する通信規格分野においても、示唆に富むものといえるでしょう。
おわりに
GoogleとPantechの和解は、表面的には一件の訴訟終結に見えますが、その背景にはSEPを巡る複雑な力学と、グローバル企業の現実的な判断があります。技術標準が高度化・複雑化する中で、知的財産をどのように尊重し、どのように活用していくのか。この問いは、今後も業界全体に突き付けられ続けることになりそうです。
