2024年6月24日、東京地方裁判所がGoogleの日本法人に対し、Pixel 7シリーズの販売差し止めを命じる決定を下しました。これは韓国のPantech社が保有する4G/LTE関連の標準必須特許(Standard Essential Patent、以下SEP)を、Googleが無断で使用したとされるものです。
何が問題だったのか?
SEPとは、特定の技術標準を実現するために欠かせない特許のことを指します。通信規格(4G/LTEなど)においては、端末が規格に準拠するために必然的にこれらの特許を使うことになります。そのため、権利者は特許をFRAND(公正・合理的・非差別的)条件でライセンス供与する義務があるとされます。
Pantechは自社の特許をFRAND条件でライセンス提供していたものの、Googleがこれに応じず、ライセンス契約を回避し続けていたと主張。東京地裁はこの点で「Googleが不誠実だった」として、販売差し止めの判断に踏み切りました。
裁判所が重視したポイント
注目すべきは、単に特許の有効性や侵害の有無だけでなく、Googleの交渉姿勢が厳しく批判された点です。特許侵害の有無に加え、「ライセンス交渉における誠実さ」が争点となるのは、近年の国際特許訴訟におけるトレンドでもあります。
販売終了済み製品への差し止め命令
Pixel 7シリーズはすでに直販では販売終了していますが、「差し止め命令」が出たことの象徴的意味は大きいでしょう。これは今後のPixel 8、9シリーズへの波及も懸念されるためです。実際、韓国メディアによれば、Pantechはすでに次世代モデルへの差し止め仮処分を東京地裁に申し立てているとのことです。
日韓間の特許戦争に発展する可能性も
今回の事例は、米国・中国で頻繁に起きていた特許訴訟の構図が、日本市場でも顕在化してきたことを意味します。特に日本の裁判所がSEP関連訴訟で販売差し止めを認めたのは極めて異例であり、Pantechにとっては戦略的勝利といえます。一方、Googleにとっては、ローカル法人であっても国際的なFRAND義務を免れないという前例を突きつけられた格好です。
今後の注目ポイント
- Googleが控訴するかどうか(知財高裁での争いへ進展する可能性)
- Pixel 8/9シリーズへの仮処分の可否
- 日本国内でのSEP・FRAND判例の今後の動向
- 他の通信機器メーカーへの波及効果(AppleやSamsungも無関係ではない)
「技術を使うならライセンスを受けろ」──当たり前のように聞こえるこの原則が、いかに国際ビジネスで複雑に絡み合うかを象徴する事件です。今後、日本市場における特許リスクの意識も大きく変わっていくかもしれません。