Netflixによるワーナー・ブラザース・ディスカバリー買収が発表され、業界全体に大きな波紋が広がっています。買収額は720億ドル規模とされ、映画・映像事業のみならず、WB Gamesや多様な知的財産もNetflix傘下に入ることになる見通しです。この中で、特にゲームコミュニティの関心を強く引いているのが、ワーナーが保有する「ネメシスシステム」の特許です。
ネメシスシステムは、『シャドウ・オブ・モルドール』および続編『シャドウ・オブ・ウォー』で高い評価を得た革新的な仕組みです。敵キャラクターがプレイヤーとの関係性を記憶し、復讐や階級争いといった独自のドラマを生み出すことで、プレイヤーごとに異なる物語体験を生成する点が特徴でした。このシステムが生む“偶発的な物語”は、ゲームデザインの新しい可能性を示したと言われています。2016年にはワーナーにより特許申請され、類似システムの外部導入には一定の制限がかかる状況が続いてきました。
しかし、ネメシスシステムを使用した新作は長く登場していません。『Wonder Woman』への採用が予定されていたものの、Monolith Productionsの閉鎖と同時に開発中止となり、特許だけが宙に浮いた状態です。この技術的遺産ともいえる仕組みが再び注目され始めた理由には、Netflixのゲーム事業への積極投資も影響していると考えられます。Netflixは、サブスク加入者向けに無料ゲームを拡充し、140本を超えるタイトルを提供するまでに成長しています。数十億ドル規模の投資も継続しており、映像企業から“ゲームプラットフォーマー”への転換を図っている様子がうかがえます。
こうした状況の中、Reddit上では「Netflixがネメシスシステムの特許を開放すべきだ」という意見が投稿され、署名活動も開始されました。ゲーム業界全体がネメシスシステムの恩恵を受けられるよう、特許のライセンス解放を求める声が上がったわけです。一方で、「時期尚早ではないか」「買収が完了する前に議論を進めても意味がない」といった慎重な意見も多く見られます。
実際のところ、買収方針の発表段階では、Netflixが知的財産をどう扱うかは不透明です。規制当局の審査も必要ですし、12月にはパラマウント・スカイダンスがワーナーへの敵対的買収案を提示したというニュースもあります。権利移転そのものが確定していない状況であり、さらにNetflixが特許を活用するかどうかも未知数です。
また、ネメシスシステムは単なる仕組みではなく、Monolith Productionsが長年培ってきた開発ノウハウと密接に結びついた技術です。システムの形式だけがあっても、同じ品質の体験を再現できるとは限りません。他スタジオが容易に模倣できるものではなく、特許の開放が直ちに広範な普及につながるとは言い切れない面もあります。
それでも、今回の買収を契機として、数年ぶりにネメシスシステムが話題に上ったことは象徴的です。ゲームコミュニティに根強い支持があり、プレイヤー体験を革新した技術として記憶され続けている証拠ともいえます。Netflixによる買収の行方がどうなるかはまだ読めませんが、ネメシスシステムの知的財産がどのように扱われるかは、ゲームデザインの未来にも影響し得る重要な論点です。
今後の展開次第では、再びネメシスシステムが脚光を浴び、新しい形で活用される可能性もあります。買収劇の進行とともに、この独自システムの行方にも引き続き注目していきたいと思います。
