削除されても消えない「偽GI」問題――海外ECにあふれる“飛騨牛”と“夕張メロン”の重み

導入

海外の電子商取引サイトで、日本の地域ブランドを示す「地理的表示(GI)」の名称を勝手に使った商品が、2024年度の調査で1197件も見つかりました。フィリピン産の牛肉が「飛騨牛」として売られ、オーストラリア産のメロンが「夕張メロン」と表示されるなど、日本の産地名やブランド名が、本来とは異なる商品に使われていたという内容です。農林水産省はこれらの削除を申請し、73%は削除を確認したものの、なお出品が残るケースもあります。このニュースは、単なる“偽物対策”の話ではありません。日本が長年育ててきた地域ブランドを、海外の市場でどう守るのかという、輸出戦略と知的財産保護の課題を浮き彫りにしています。

GIは「名前」ではなく「信用」そのもの

GI保護制度は、地域特有の農林水産物や食品の名称を国が保護する仕組みです。つまり、GIに登録された名称は、単なる商品名や通称ではなく、その土地で、その方法で、その品質基準を満たして生産されたことを示す「信用の印」だといえます。

たとえば「飛騨牛」や「夕張メロン」という名前には、産地の自然条件、生産者の努力、長年積み重ねられた評価、そして消費者の信頼が含まれています。だからこそ、別の国や地域で生産された商品が同じ名称を名乗ることは、見た目以上に深刻です。それは単に名称を借りているのではなく、他者が築いてきた信用に“ただ乗り”していることにほかなりません。

1197件という数字が示すもの

今回の調査では、世界の主要184のECサイトを対象に、日本語、英語、中国語でGI産品の名称や地名を検索し、不正使用が疑われる事例が1197件確認されました。そのうち697件は、「神戸牛」などのGI産品を明らかに模倣した商品だったとされています。

この数字から見えてくるのは、海外市場において日本の地域ブランドがそれだけ強い訴求力を持っているという現実です。裏を返せば、名前を使うだけで売れるほど、日本のGI産品の価値が高く評価されているということでもあります。

しかし、本来その評価は、正規の生産者や輸出事業者が品質管理や販路開拓に取り組んできた結果として生まれたものです。そこに無関係な出品者が便乗すれば、正規事業者は価格競争でも不利になり、消費者も本物と偽物を見分けにくくなります。ブランド価値が高いほど、模倣の被害も大きくなるという構図がここにあります。

削除率73%は前進だが、十分とは言えない

農林水産省は、見つかった1197件すべてについて削除を申請し、そのうち877件、割合にして73%で削除を確認したとされています。行政が海外ECサイトに対して実際に対応し、一定の成果を上げている点は評価できます。

ただし、逆にいえば約4分の1は削除されずに残っていることになります。特に、日本とGIの相互保護協定を結んでいない国や地域では、削除に応じない事例があるという点は重く受け止めるべきです。制度が国内で整っていても、海外で十分に保護されなければ、越境ECが拡大する時代には守りきれません。

つまり、現在の対策は「見つけて削除を求める」という事後対応が中心であり、被害の拡大を根本的に防ぐには限界があります。発見してから消すのではなく、そもそも不正出品されにくいルールや連携体制をどうつくるかが次の課題です。

これは生産者だけの問題ではない

この問題は、GI産品の生産者や輸出事業者だけの悩みではありません。消費者にとっても、産地表示やブランド表示が信頼できなくなることは大きな損失です。

海外の消費者が「飛騨牛」や「夕張メロン」という名前で品質の低い商品を購入した場合、その人にとっては「日本のあのブランドは大したことがない」という印象が残るかもしれません。その印象は、本物のGI産品に対する評価まで傷つけます。一度崩れたブランドイメージを取り戻すには、長い時間と大きなコストがかかります。

ブランド毀損は目に見えにくいため軽視されがちですが、実際には非常に厄介です。売上の損失だけでなく、将来の市場機会まで奪いかねないからです。

数が横ばいであることの不気味さ

同様の調査では、2022年度が1135件、2023年度が1242件、2024年度が1197件でした。増減はあるものの、全体としては高い水準で推移しています。これは、一時的な摘発強化で収まる問題ではなく、恒常的に発生している構造的な課題であることを示しています。

しかも、EC市場は国境を越えて広がり続けています。出品者は複数のサイトを使い分けることができ、削除されても別の名称や別の販売ページで再出品することも可能です。そう考えると、実際の被害は確認件数以上に広がっている可能性もあります。

件数が大きく減っていないという事実は、対策が無意味ということではありません。むしろ、対策を続けなければ、状況はさらに悪化していたかもしれません。ただ、現状維持では足りず、より踏み込んだ国際的な制度整備と民間プラットフォームとの連携強化が必要だということです。

守るべきなのは「地域経済の知的財産」

GIは、大企業の商標とは少し異なり、地域全体で育ててきた知的財産です。そのため、侵害されたときのダメージも、個社の損失にとどまりません。生産地の評価、地域産業の持続性、観光や輸出を含む周辺経済にも影響します。

日本では、地域資源を活用した高付加価値化が重要視されていますが、その前提になるのは「本物であることが正しく評価される市場」です。いくら品質の高い産品をつくっても、海外で名前だけが乱用されれば、努力は報われにくくなります。

だからこそ、GIを守ることは、生産者保護にとどまらず、地方創生や輸出拡大政策の基盤を守ることでもあります。日本産の価値を海外で正しく伝え、正しく選ばれるためには、名称の保護が欠かせません。

結び

海外ECサイトで見つかった1197件のGI不正使用は、日本の地域ブランドが世界で注目されている証しである一方、その価値が無断で利用されている現実も示しています。削除率73%という成果はあるものの、なお出品が残る現状を見ると、問題はまだ入口にすぎません。

本当に問われているのは、「ブランドをつくる力」だけではなく、「ブランドを守る力」です。飛騨牛や夕張メロンのような名前は、地域が長い時間をかけて築いた信用の結晶です。その価値を海外市場で正当に守れるかどうかは、日本の農林水産物輸出の将来を左右する重要なテーマになっていくはずです。