中国商務部は2026年4月27日、欧州連合(EU)の「産業加速法案」に対する正式な意見書を4月24日付で欧州委員会へ提出していたと明らかにしました。中国側は、この法案が電池、電気自動車(EV)、太陽光発電、重要原材料の分野で外資投資に厳しい条件を課し、公共調達や公的支援でも「EU原産」を優遇しているとして、「深刻な投資障壁」であり「制度的差別」だと批判しています。一方でEUは、この法案を脱炭素と産業競争力を同時に強化するための枠組みとして位置づけており、すでに欧州議会とEU理事会での審議に委ねています。今回のニュースは、中EU間の応酬というだけでなく、グリーン政策と経済安全保障が一体化した時代の通商ルールを映し出しています。
中国が問題視しているもの
中国の主張はかなり明確です。商務部は、法案が最恵国待遇や内国民待遇といった基本原則に反する疑いがあり、中国投資家への差別につながるだけでなく、EUのグリーン移行を遅らせ、公正競争も損なうと述べました。そのうえで、中国は法案から、外国投資家への差別的要件、現地調達要件、知的財産権や技術移転に関する強制的要件、公共調達の制限を削除するよう要求し、受け入れられなければ対抗措置を取る構えも示しています。つまり中国は、この法案を単なる産業振興策ではなく、実質的に中国企業を締め出す制度変更として受け止めているのです。
EU法案の本質
もっとも、EU側の説明を見ると、この法案は単純な「反中法案」ではありません。欧州委員会は3月4日に公表した産業加速法案について、低炭素かつ欧州製の技術・製品への需要を高め、製造業を強化し、雇用を増やし、脱炭素を加速するための措置だと説明しています。対象も、鉄鋼、セメント、アルミ、自動車、ネットゼロ技術など、EUが戦略産業とみなす分野に広がっており、背景にはクリーン産業政策だけでなく、非EU依存の是正や供給網の強靱化という経済安全保障上の発想があります。
ここで重要なのは、EUがもはや「安いものを世界から買う市場」であるだけではなく、「市場アクセスの見返りとして何を欧州にもたらすか」を厳しく問う市場に変わりつつあることです。欧州委員会自身が、外国直接投資についても「EUに具体的な価値をもたらすこと」を狙いの一つに掲げており、法案の思想は自由化よりも、条件付きの開放へと重心を移しています。これは中国だけでなく、EU域外企業全般に向けたメッセージだと見るべきです。
「EU原産」条項の意味
中国が強く反発する「EU原産」条項も、実際にはかなり制度設計されたものです。法案本文では、公共調達や一部の公的支援において、一定のネットゼロ技術について「Union origin requirements」が置かれ、たとえば蓄電池、太陽光、ヒートポンプ、風力などで、一定時点以降はEU原産の完成品や主要部品を求める仕組みが盛り込まれています。したがって、中国のいう「欧州製優先」は誇張ではなく、法案の中核部分に実際に書き込まれています。
ただし、この制度は完全な閉鎖ではありません。法案は、EUと自由貿易協定や関税同盟を結ぶ国、あるいはWTO政府調達協定(GPA)の当事国からの調達については、一定の場合に「EU原産と同等」とみなす余地を設けています。他方で欧州委員会は、相手国がEU企業に内国民待遇を与えていない場合や、依存回避の必要がある場合には、その扱いを除外できる仕組みも持たせています。しかもWTO上、中国はGPAの当事国ではなく、委員会オブザーバーです。したがって、中国企業から見れば、この法案は形式上は例外を持ちながらも、実務上は自社に不利に働きうる制度だと映るはずです。これは中国の反発が単なる政治的演出ではなく、制度の読みとして相応の根拠を持っていることを示しています。
中国が最も警戒しているのは投資規制の部分
今回の法案でとりわけ注目すべきなのは、公共調達よりむしろ外資規制の章です。法案では、100百万ユーロ超の対EU直接投資で、かつ投資元の第三国が当該分野の世界生産能力の40%超を握る場合、電池、EV、太陽光、重要原材料の製造分野への投資は、当局の明示的な承認がなければ実行できない仕組みになっています。対象分野の並びが、中国商務部の声明とぴたり一致していることから見ても、中国側がここを核心的な規制として読んでいるのは自然です。
さらに承認要件も重いです。法案は、原則として六つの条件のうち四つ以上を満たす投資だけを認める建て付けにしており、その中には、外国投資家の持分を49%以下に抑えること、EU企業との合弁であること、知的財産権やノウハウのライセンス供与、EU域内売上高の1%以上の研究開発支出、労働者の少なくとも50%をEU労働者とすること、投入物の少なくとも30%をEUから調達するよう努めることなどが含まれます。しかも50%のEU労働者要件は承認の必須条件です。中国が「技術移転の強制」や「現地調達要件」と表現した背景には、こうした条文があります。EU側はそれを「欧州への付加価値確保」と説明するでしょうが、中国側から見れば、投資の見返りに経営権、技術、雇用、調達を差し出させる仕組みに見えるでしょう。
争点は「違法か」より「どこまで許されるか」
この法案をめぐる争点は、単純に「WTO違反かどうか」だけではありません。もちろん中国は最恵国待遇や内国民待遇に反すると主張していますが、EU側も、相互主義、供給網の安全保障、依存回避、気候政策を組み合わせながら制度を組み立てています。法案本文にも、FTAやGPAに基づく扱い、例外規定、依存回避の観点が細かく書き込まれており、EUは最初から法的防御線を意識しているとみられます。つまり今起きているのは、露骨な関税引き上げではなく、「経済安全保障を理由にどこまで市場アクセスに条件を付けられるのか」という、より現代的で厄介な争いです。
このニュースが示す本当の変化
今回のニュースが示しているのは、グリーン政策がもはや環境政策だけではなく、産業政策であり、通商政策であり、安全保障政策でもあるという現実です。EUは脱炭素を進めながら、同時に製造業回帰と対中依存の低下を狙っています。中国はそれを差別と呼びますが、EUにとっては「無防備な開放をやめる」という戦略転換でもあります。両者の立場は真正面から衝突していますが、どちらも国内産業基盤と技術主権を守ろうとしている点ではよく似ています。
その意味で、この問題は中国とEUだけの話ではありません。今後は、海外市場に参入する企業にとって、価格や性能だけでなく、現地雇用、技術協力、サプライチェーンの所在、公共調達ルールへの適合までが競争条件になります。自由貿易の時代には「何を売るか」が中心でしたが、これからは「どこで作り、誰を雇い、どこまで現地に価値を残すか」が問われる時代になります。今回の法案は、その新しいルールの始まりを象徴しているように思います。
